〈滅びゆく地球〉DYING EARTHシリーズ
【概要】-
ジャック・ヴァンスの「終末期の赤い地球」が米国で初めて出版されたのは、一九五〇年のことで、ヒルマンという小さな出版社からだった(日夏響による翻訳も、この版に因っている)。発行部数がそれほど多くなかったにもかかわらず、ファンタジーの名作としての評判は急速に高まっていったという。
舞台は、科学文明が忘れ去られた遠い未来。動物も植物も現在とは形を変え、人喰いのデオダンや森の小人ツウクマンなど、奇怪な人種が荒野や森を跳梁する。
この世界では、魔法の知識すら多くは失われ、千の呪文のうち残存しているのはわずか百だけだ。乱雲呼びおろしの呪文、無敵火炎放射術、ファンダールの魔法のマント、時間遅滞の呪文、ファンダールの渦旋活殺の術、フェローヤンの二次金縛り、活力持続呪法、球状排撃術、等々。
魔法に制約を与えるために、ヴァンスはこの作品に新しいアイデアを持ち込んだ。訓練を積んだ魔術師でも同時に5、6種の呪文しか頭に入れることができず(それも、かなりの精神力を必要とする)、しかも一度しか使えないので、また必要とするときは再度記憶しなおさなければならない――という法則だ。
物語は半ば独立し、半ば関連した6篇の短篇から構成され、魔法と廃墟と異生物のあやなす不思議な世界へと読者を誘う。六六年には、知恵者クーゲルというアンチ・ヒーローの旅を描いた続篇「天界の眼」が発表されている。
―『SF兵器カタログ』(KKワールドフォトプレス、
一九七八)所収「ファンタジーの世界」より
【原作】
●THE DYING EARTH
- THE DYING EARTH (Hillman, 1950)
- THE DYING EARTH (Lancer, 1969)
(Hillman版とLancer版では第一話と第二話の順序が逆になっており、また 一部で収録作品のタイトルが変更されている)
<アンソロジー収載>(THE DYING EARTH所収)
- Mazirian the Magician, THE SPELL OF SEVEN, ed. L. Sprague de Camp (1965)
- Turjan of Miir, THE YOUNG MAGICIANS, ed. Lin Carter (1969)
- THE EYES OF THE OVERWORLD (1966)
- CUGEL'S SAGA (1983)
- A QUEST FOR SIMBILIS, by Michael Shea (1974)
<雑誌・アンソロジー収載>(CUGEL'S SAGA所収)
- The Seven Virgins, Fantasy and Science Fiction Oct 1974
- The Bagful of Dreams, FLASHING SWORDS! #4, ed. Lin Carter (1977)
- RHIALTO THE MARVELLOUS (1984)
<アンソロジー収載>(RHIALTO THE MARVELLOUS所収) - Morreion, FLASHING SWORDS! #1, ed. Lin Carter (1973)
【翻訳】
●THE DYING EARTH
- 『終末期の赤い地球』日夏響訳(久保書店、一九七五)
- 『終末期の赤い地球』日夏響訳(電子書籍、グーテンベルク21、二〇一五)
<雑誌掲載> - 「ミール城の魔法使」佐藤正明訳(SFマガジン一九七一年六月号)
- 「魔法使と謎の美女」佐藤正明訳(SFマガジン一九七一年十月号)
- 『天界の眼 切れ者キューゲルの冒険』中村融訳(国書刊行会、二〇一六)
<雑誌・アンソロジー収載> - 「十七人の乙女」浅倉久志訳(SFマガジン一九八〇年七月号)
- 「天界の眼」中村融訳、『不死鳥の剣』中村融編(河出文庫、二〇〇三)
- ダン・シモンズ「ウルフェント・バンデローズの指南鼻」
酒井昭伸訳(SFマガジン二〇一六年八月号・十月号)
暮れゆく地球の物語(THE DYING EARTH)
- 第一話「ミール城の魔法使」
- 第二話「魔法使と謎の美女」
※訳文はほぼSFマガジン掲載時のままですが、訳語を一部変更しています。