第五章 アリス、目が覚める
煙はあたりをおおいつくして、ほとんど何も見えなくなってしまいました。右のほうでドアがあく音がしたかと思うと、さきほどのスポーツ選手たちが煙のなかをドタドタと走って左側のドアへと消えていきました。煙にむせながらアリスがそのあとを見送っていると、今度は前方から、動物の大群が走っているような音が近づいてきました。煙のカーテンをすかして何が来るのか見ようとしましたが、何も見えません。音が次第に大きくなってくるので、おそろしくなったアリスは壁に身を寄せました。
動物の大群が間近に迫ったとき、やっとその姿が見えました。それは、あの夢を食う獏の群れでした。獏を駆り立てているのは、馬に乗ったネコたちです。あっというまに獏の大群は通り過ぎ、足音は次第に遠ざかっていきました。
次いで、イカの大群やハエの群れや、カナリア色の羽をした飛び魚や、金色に光るカモメを先頭にしたカモメの群れが、煙のなかを入れかわり立ちかわり、ブンブン飛び回りはじめました。どこか遠くからは、野ネズミと白ウサギのアリスを呼ぶ声が聞こえます。
「アリース、アリース、アリース」
「アリス、アリス、起きなさい」と、お姉さんの声が聞こえます。気がつくと、アリスはリンゴの樹の下でうたた寝をしていたのでした。
「私、とってもおかしな夢を見たわ」とアリスはねぼけまなこで言いました。
「アリスがおかしな夢を見るのは今に始まったことじゃないわ。トランプの女王様の夢だとか、鏡の国の夢だとか……。もうすぐ夕食ですから、家に帰りましょう」そう言いながら、お姉さんはアリスの手をとって立ちあがらせました。
お姉さんといっしょに家へ帰る途中、アリスは心のなかでこうつぶやきました。
「夕食のおかずはムニエルじゃありませんように。食後のデザートはプリンじゃありませんように……」
□おわり□