キング・カルと樫の木

  THE KING AND THE OAK

ロバート・E・ハワード 
さとう@Babelkund訳 

夕闇が日輪を(ほふ)るまえ 鳶たち はのびやかに空を滑り
カルは 赤き(つるぎ)を腰に 森の道を馬で行き
風たちは囁きまわっている 《キング・カルが海に行く》と

日輪は紅く燃えて海に沈み 長い灰色の夕闇が降りる
出でし月輪は悪霊の呪文を(うつつ)にする(しろがね)のされこうべ
その光のもと そびゆる巨木は地獄よりの幽鬼たち

怪しき光のもと 樹々はそびえ 物の()共の影うすし
各々の幹は生ける姿に 各々の枝は節ある四肢に カルの脳裡には映り
不可思議な あの世の 邪悪なる瞳が カルを見つめて恐ろしげに燃え上がる

枝々は節ある蛇のごとくうねり 激しく夜を打ち
一本(ひともと)の薄黒き樫の木揺らぎ カルの眼前に猛く恐ろしく
その根をもたげ カルの行く手を阻み 幽界のごとき光のもとに怪しげに

森の道で戦うは 王と不気味な樫の木
樫の四肢 カルにからみつけど カル 声も立てず
(くろがね)の腕にはむなしく 突き刺さんとする短剣が 折れてあるのみ

立ち騒ぐ奇怪な樹々の間より あえかなる歌おこり
幾百万星霜の邪悪と憎悪と苦悩に満ち満ちて
《人間どもの来たる前 我らこの世の(おさ)なりし いつか再び長ならん》

カルの心に浮かぶは 人間の歩みの前にひれ伏したる 怪しき(いにしえ)の帝国
行軍する蟻のまえに草の葉の国々のように 滅び去りし帝国
戦慄がカルを襲い 夢ごこちの人のように 暁の中に

カルが血にまみれた手で戦うは 不動の物言わぬ樹木
悪夢から抜け出るようにカルは目覚め 風が草地を吹きわたり
気高きアトランティスのカルは 馬に乗り 静かに海へ行く

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