SFとファンタジーの国のアリス
〜『アリス』をテーマにしたSFやファンタジーを紹介します〜

ボロゴーヴはミムジイ

【原題】MIMSY WERE THE BOROGOVES
【作者】ヘンリー・カットナー
【訳者】伊藤典夫
【初出】ASTOUNDING誌一九四三年二月号
    (ルイス・パジェット名義)
【出典】
@S-Fマガジン一九六五年十一月号
A『ボロゴーヴはミムジイ』
 (ハヤカワSFシリーズ、一九七三)
B『伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴは
 ミムジイ』(ハヤカワ文庫、二〇一六)
【分類】SF
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【ストーリー】
遥か未来、ひとりの科学者がタイムマシンのテストをしていた。試作機に不要になった自分の子供の玩具の一部を積み込み、過去へ送った。だがタイムマシンはもどってこなかった。次の試作機にも残りの玩具をすべて放り込んで過去へ送ったが、結果は同じだった。
タイムマシンの一台は一九四二年の米国に漂着した。それを拾った少年とその妹は、中から見つけた玩具で遊ぶうちに、みるみる知能を身につけていった。しかし、それは周囲の大人たちのユークリッド幾何学的な思考とはまったくかけ離れたものだった。
一方、もう一台のタイムマシンは十九世紀後半の英国のテ−ムズ川の河畔に漂着し、ひとりの少女がそれを拾うことになる。
題名でわかる通り、『鏡の国のアリス』のジャバーウォッキーの詩が重要な役割を果たしている。
なお、この作品はTHE LAST MIMZY のタイトルで二〇〇七年に映画化され、『ミムジー 未来からのメッセージ』のタイトルでDVD化されている。
左図はASTOUNDING誌掲載時のイラスト(Kolliker画)


うららかな昼下がりの出来事

【原題】ALL ON THE GOLDEN
    AFTERNOON
【作者】ロバート・ブロック
【訳者】小笠原豊樹
【初出】FANTASY AND SCIENCE
    FICTION誌一九五六年六月号
【出典】『血は冷たく流れる』(早川書房、
    異色作家短篇集8、一九六二)
【分類】SF
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【ストーリー】
ハリウッドの売れっ子女優のマネージャーから急の呼び出しをうけたおかかえの精神分析医は、女優がもう仕事をやめると言い出した理由をさぐるために問診を始めた。女優は最近見た夢の話をした。それは最初から最後まで『不思議の国のアリス』そのままだった。だが、彼女はアリスのアニメや映画も見たことがなく、その話を読んだことも聞かされたこともないと言いはった。彼女はその夢をある教授から一万ドルで買ったというのだ。
問診のときに女優が語る『不思議の国のアリス』の各エピソードを、精神分析医が逐一、女優の過去や精神状態に当てはめて分析していくところが楽しい。

アリスは、落ちながら

【原題】Alice, Falling
【作者】スティーヴン・ミルハウザー
【訳者】柴田元幸
【出典】『バーナム博物館』(白水uブック
    ス、二〇〇二。福武書店の単行本・
    文庫の復刊)
【分類】ファンタジー
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【ストーリー】
アリスはウサギ穴を落ちながら回りの情景をしっかりと観察します。そして落ちる前のことも思い出そうとします。落ちていく先のことも、いろいろと想像します。次第に、地上で夢を見ている女の子と自分とを分離できないかと考えるようになります。
アリスが落ちていく場面だけを二十五ページかけて詳細に記述したものです。回りの情景、アリスの思考・回想などを克明に描いていて、ひじょうに興味深いです。

目覚めたる目には、
     見えることのなく

【原題】NEVER SEEN BY WAKING EYES
【作者】スティーヴン・デッドマン
【訳者】梶本靖子
【初出】FANTASY AND SCIENCE
    FICTION誌一九九六年八月号
【出典】S-Fマガジン二〇〇一年三月号
【分類】ファンタジー
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【ストーリー】
ロンドンに住む弁護士の家に転がり込んできた少女は名前をアリスといった。弁護士はルイス・キャロルにひじょうに関心をもっていたが、八歳ぐらいにしか見えないその少女は百年以上前に死んだはずのキャロルに会ったことがあると言い、キャロルの思い出をいろいろと語ってくれた。少女は普通の人間ではなかった。彼女は陽の光を避けて暮らしており、その姿は写真にも鏡にも写らないのだ。
現代社会の性的な問題を折込みながらも叙情的な雰囲気を醸し出している作品で、「ポーの一族」の少女版と言ってもいいかもしれない。
タイトルは『鏡の国のアリス』の巻末詩の一節。

上陸休暇中止!(テレビ放送題名「おかしなおかしな遊園惑星」)

【原題】SHORE LEAVE
【作者】ジェイムズ・ブリッシュ(実際は
    ブリッシュの死後、夫人のJ・A・
    ローレンスが執筆)
    (原案:シオドア・スタージョン)
【訳者】斎藤伯好
【初出】STAR TREK 12(一九七七)
【出典】『宇宙大作戦 上陸休暇中止!』
    (ハヤカワ文庫SF、一九八一)
【分類】SF
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【ストーリー】
テレビドラマ「スター・トレック」のエピソードのひとつ。地球に酷似した惑星を発見したエンタープライズ号の一行は、上陸休暇が可能か調査をするため偵察隊を送りこんだ。機械による探査ではいかなる種類の生命体もいないはずであったが、上陸班のひとりドクター・マッコイはそこでおかしなものを目撃した。チョッキを着た白うさぎが「これでは遅刻してしまう!」と叫び、ポケットから懐中時計を引っぱり出したのだ。うさぎが茂みに姿を消したあと、今度はエプロンをつけた少女が現われ、うさぎの行方を尋ね、うさぎのあとを追っていった。マッコイはすぐさまエンタープライズ号に残っているカーク艦長に連絡したが、とりあってもらえない。そして上陸班は次々におかしな出来事に遭遇することになる。アリスが出てくるのはこの最初のシーンだけです。

鏡迷宮

【作者】北原尚彦
【出典】
@S-Fマガジン二〇〇二年七月号
A『死美人辻馬車』(講談社文庫、
 二〇一〇)
B『不思議の国のアリス ミステリーアンソロ
 ジー
 アリス殺人事件』(河出文庫、
 二〇一六)
【分類】ファンタジー
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【ストーリー】
売れない女優のアリシアがやっとつかんだ主演の仕事は『鏡の国のアリス』のオペレッタ。初日の舞台は最初順調だったが、しだいに現実の舞台と不思議の国・鏡の国の幻想世界とが錯綜してくる。そしてアリシアはその幻想世界の出来事に暗号化されたメッセージが隠されているのに気づいた。彼女はこの混乱から脱出するために、次々とメッセージを解読して、先に進んでいくのだった。そのメッセージは誰から、何のために送られてくるのか……。
花壇、赤の女王、チェシャ猫、兎の穴、裁判所と次々に登場してくるのが楽しい。S-Fマガジンの「暗号/数学SF特集」のために書き下ろされた作品。

屋根裏のアリス

【作者】本間祐
【出典】『異形コレクション7 チャイルド』
 (井上雅彦監修、廣済堂文庫、一九九八)
【分類】ホラー
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【ストーリー】
絵里香の母親は本を嫌っており、夫の死後、蔵書をすべて焼き払い、娘の絵里香にも本を読むことを禁じていた。しかし彼女は母親に内緒で小学校の図書館で本を読んでいた。そして彼女は『不思議の国のアリス』の本と出会った。絵里香を不安にさせる気持ち悪い本だったが、それでも読むのをやめられなかった。それは彼女にとって特別な本になった。そんなある日、同級生の摩耶に誘われて彼女の家に行った。摩耶の部屋は屋根裏部屋だった。そこで見つけた革のカバーがかかった本は『不思議の国のアリス』だった。摩耶はそれを読み聞かせてくれた。それはとても楽しい時間だった。そして次の日も次の日もふたりは放課後を屋根裏で過ごすのだが……
妖しい雰囲気がたまらないソフトなホラー。



初出:mixiコミュニティ「不思議の国の
  アリス」(二〇〇六、二〇〇八)
再録:日本ルイス・キャロル協会ニューズレ
  ター The Looking-Glass Letter
  (二〇〇九、二〇一三、二〇一四)

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