ノースウェスト・スミス
短調の歌
【口上】
宇宙にもファンタジーの領域は広がっている。例えば、太陽系無宿のノースウェスト・スミスの活躍する世界がそれだ。女流作家C・L・ムーア描くところのこのシリーズについては、「シャンブロウ……そして……ミンガの処女。ただ、そうつぶやいただけで、ぼくは、体がぽーッとあつくなり、そして胸がジーンとしてくるのだ」と言うほど惚れこみ、のめり込んでいる野田昌宏大元帥によって、ほとんど語りつくされている(『大宇宙の魔女』のあとがきや『SF英雄群像』をご参照下さい)が、これをスペース・オペラとしてでなく、ファンタジー的視点から眺めてみたい。主人公ノースウェスト・スミスは、熱線銃一丁を頼りに、金星―地球―火星の三惑星をまたにかけるアウトローであり、金星人の相棒ヤロールと共に、危ない橋を渡って生活している。しかし、このシリーズは決してヒーロー・ストーリー≠ナはない。多くの場合、NW・スミスは幻想的・官能的な状況にまきこまれ=A間一髪のところで逃げ出す≠ゥあるいは助け出される≠フだ。
――『SF兵器カタログ』(KKワールドフォトプレス、一九七八)収載の「ファンタジーの世界」のうちの「4 宇宙の妖女と神々」から抜粋(→全文はこちら)――
ここに紹介するノースウェスト・スミスものの掌編『短調の歌』Song in a Minor Keyは、最初、ファンジンSCIENTI-SNAPSの一九四〇年二月号に掲載され、後に商業誌Fantastic Universeの一九五七年一月号に再録されている。わたしがこの作品に出合ったのは、翻訳家・伊藤典夫さんのアパートで、たぶん一九七二年ごろだ。当時はSFファンが集まる〈一の日会〉の流れで、そのまま伊藤さんのアパートになだれ込むことがよくあった。そこで伊藤さんに見せていただいたのがこのFantastic Universe一九五七年一月号だった。個人所有のコピー機などない時代で、わたしは夜中に全文を手書きで写した。それを翻訳してファンジン「宇宙気流」に載せようと思っていたところ、ハヤカワSF文庫の担当者・酒匂真理子さんが、ノースウェスト・スミスの全作翻訳に着手した仁賀克雄さんがこの作品を探しているとおっしゃっていたので、拙訳の原稿を提供し、第三巻『暗黒界の妖精』に収載された。訳者名にわたしの名はなく、訳者あとがきに「どうしても見つからずあきらめていたところ、偶然のことから、佐藤正明氏が既に訳されていることを知り、編集部が同氏より入手したものである。同氏とは直接お会いしたことはないので、原文をどこから入手されたかは知らないが、ともかく収録できたことはファンと共に喜びたい。これがN・W・シリーズの最後の作品という興味もある。」と記されている。この本は増刷を重ねたようだが(手元には六刷がある)、早川書房から印税の振込みはなかった。
〔翻訳履歴〕
1973/02/28
『ノースウェスト・スミス/暗黒界の妖精』
(ハヤカワSF文庫)
〈別訳〉
2008/07/05
『シャンブロウ』(論創社、仁賀克雄訳)
2021/11/12
『大宇宙の魔女』(東京創元社、中村融訳)
〔掲載書籍〕

〔追記〕
このシリーズに惚れこんだ作家・川又千秋氏が中華風パスティーシュを書いている。
『火星の白蛇伝説――星界伝奇』(中公文庫、二〇一七)。
主人公の名は素密素、
字は乾
(北西の意)。
火星・金星・地球・月を舞台にした冒険譚だ。
〔お願い〕
リンクは自由に張っていただいてけっこうです。転載や再配布はご遠慮ください。
〔原作〕
原題:SONG IN A MINOR KEY
作者:C. L. Moore
初出:SCIENTI-SNAPS (Feb, 1940)
再録:Fantastic Universe (Jan,
1957)
Scarlet Dream (Donald M.
Grant, 1981)
Northwest Smith(Ace, 1982)
Echoes of Valor II(Tor,1989)
ed. Karl Edward Wagner