ケーキはどの袋から?

さとう@Babelkund

 『鏡の国のアリス』を再読していてひとつの疑問が浮かびました。第七章で伝令のヘヤが王様の指示で袋からケーキを取り出すところです。
 王様のもとに到着したヘヤは自分の首にかけた袋からまずサンドイッチを取り出します。王様が「サンドイッチをもう一つ」と言うと、ヘヤは「もう干し草しか残っていません」と答えます。その後、ライオンとユニコーンの争いが一段落したところで、ユニコーンの「干しぶどうのケーキを取ってきてくれ」という求めに応じて、王様がヘヤにこう命じます。
 "Open the bag!" he whispered. "Quick! Not that one---that's full of hay!"
 ヘヤは袋から大きなケーキを取り出し、ついで皿とナイフも取り出します。アリスは袋からいろいろなものが出てくるのでびっくりします。王様が「そいつではない――それは干し草でいっぱいだ」と言ったのですから、わたしはてっきりヘヤは別の袋からケーキを取り出したのだと思っていました。ほとんどの翻訳本がそうとれるような訳し方をしています。
 しかし、テニエルの挿し絵でヘヤは袋をひとつしかさげていません。ヘヤがケーキを取り出した袋はthe bagと書かれており、the other bagとはなっていません。またケーキと皿とナイフだけを袋から取り出したのなら、アリスはそれほどびっくりしないでしょう。サンドイッチや干し草を取り出した袋から、またケーキと皿とナイフも手品のように出てきたのでびっくりしたのではないでしょうか。
 つまり、こういうことではないでしょうか。ヘヤは自分の首にひとつだけさげた袋から、時が来ればケーキも取り出せることを知っており、求めに応じて取り出そうとした。しかし、王様はそこには干し草しか入っていないと思っていたので、どこかほかにある別の袋から取り出すように命令した。そうならば、上記の王様のことばも説明がつきます。
 あなたはどの袋にケーキが入っていたと思いますか。

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