■メリーさんは電子羊の夢を見るか■

 朝、亜里が何かおかしな夢からさめると、自分がパソコンのキーボードに顔を伏せて寝ていたことに気がついた。羊の夢だったようだ。時計を見ると、もう登校の時間だった。《ヤバイ!》 彼女はあわてて支度をすると家を飛び出した。
 バスの中で携帯電話のメールのチェックをしていると、夢で見た羊が突然画面に現れた。《何なのコレ。》 羊は、次々と画面の右から出てきて左に消えた。《一匹、二匹、三匹……》
「お客さん、駅ですよ」運転手の声で起こされた。いつのまにか眠り込んでいたらしい。そういえば、昨晩もパソコン画面に現れた羊を数えているうちに眠り込んでしまったのだ。
 午後、パソコンの授業があった。ソフトを起動させて課題にとりかかると、画面にまた羊が現れた。急いで画面から目をそらす。
《これって、まるでメリーさんの羊じゃない。♪メリーさんの羊/学校へも一緒…》
 ほかの人の画面にも羊が見えたが、だれも気にしていない。見えないのだ。《頭がおかしくなったの?》 急いで保健室に駆け込んだ。白衣姿の先生は言った。「わが校では初めての感染例だな」《伝染病?》「新種のコンピュータ・ウィルスらしい。パソコンの画面を介して大脳に特定のイメージを植えつけ、画面を見ているときにそれが再生されるそうだ。駆除法はまだ見つかっていない」《そんな!》 「でも、心配しなくていい。対抗ソフトが開発されているから…」
 そんなわけで、この電子羊を頭の中に住まわせることになった。パソコンや携帯を使っていて眠くならないかって? だいじょうぶ。対抗ソフトの【牧羊犬】が現れて、羊どもを画面の隅に追いこんでくれるから。
              □おわり□

【初出】謹賀新聞 第一五号
    (2003年1月1日発行)

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