バブルクンドの崩壊

 The Fall of Babbulkund

 わたしはいった。「今こそ立ちあがり、驚異の都バブルクンドを見よう。大地と(よわい)を同じくし、星々をその姉妹とする都。アラビヤより遠征してきた(いにしえ)のファラオたちがはじめてこれを目にし、当時まだ砂漠のただなかの孤立した山であったところを、幾多の塔と段地とに刻みあげた。かれらは神の山の一つを崩したが、そのかわりにバブルクンドを造った。この都は刻まれたのであり、築かれたのではない。その宮殿は段地と一体であり、いかなる合せ目や裂け目もない。その美こそ世界の青春期の美。自らをこの世の中心とみなし、諸国に向けて四つの門をもつ。東の門の表には巨石の神像が座している。その顔は暁の光を受けて赤く輝く。朝の陽光がその唇を暖めるとき唇はわずかに開き、『ウーン・ウーム』という言葉を発するが、神像の口にするその言語は遥か昔に廃れ、その礼拝者たちは墓に納められてしまっているがゆえに、暁に発するその言葉がなんの前兆であるかを知る者もない。神が自分たちの言葉で他の神に挨拶をするように、神像は太陽に挨拶をしているのだと、ある者はいう。一日の始まりを宣しているのだと、ある者はいう。警告を発しているのだと、またある者はいう。そしていずれの門にも、目の当たりにするまで信じられないような驚異がある」

(ダンセイニ「バブルクンドの崩壊」より)

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「妖精族のむすめ」復刊!

「バブルクンドの崩壊」は、ロード・ダンセイニの名作ファンタジーを集めた短篇集『妖精族のむすめ』(ちくま文庫、一九八七年)に収載されています。この文庫は長らく品切れ状態で、ファンタジー・ファンの垂涎の書となっており、復刊ドットコムでも百二十票を越える復刊リクエストが出ていましたが、筑摩書房主催のちくま文庫復刊アンケートで上位に入り、≪ちくま文庫復刊フェア≫の九点のなかの一冊として二〇〇五年十一月にようやく復刊されました。
この短篇集には、私さとうが翻訳した左記の四篇も収載されています。いずれも、ファンタジーのアンソロジーに収載されることもある名作です。お読みいただき、このなかの一篇でも気に入ってくだされば、訳者として望外の喜びです。

東雅夫編『幻想小説神髄』
  「バブルクンドの崩壊」収載

ちくま文庫の世界幻想文学大全(全三巻)の『幻想小説神髄』(二〇一二年)に、拙訳の「バブルクンドの崩壊」が収載されました。